巷では「印鑑」と「IT」の両立を目指すという話が話題になっていますが、弊社(輝日株式会社)ではすべての契約書や証憑類を電子化しています。
もちろん、会社法の関係もあって、印鑑が全くないわけではありませんが、実務上印鑑を使うのはごく稀です。
実際の運用事例として、参考になるのかもしれないので、弊社の事例をご紹介しておきます。
電子署名・電子サインが法的に有効とされたのは2001年。
驚きかもしれませんが、日本においては、「電子署名及び認証業務に関する法律」で2001年に明確に有効なものとして定められています。もう既に20年前の話です。実のところ、日本においては契約の成立に関する規定がかなり緩い国で、「口頭も契約として有効」とみなされるレベルには緩いです。そう考えると、契約の存在を証明するものとして電子サインや電子署名を有効にすること自体は敷居が高くないことがわかると思います。
実運用の話
採用しているシステム
まず、弊社では電子サインシステムとしてAdobe社が提供している「Adobe Sign」を採用しています。
提供しているサービスの内容や運営会社の信頼性、採用している電子証明書の信頼性などを鑑みて判断しました。雑多に理由を上げると、
- タイムスタンプがある(第三者機関として契約の実施年月日時刻を記録できる)
- 客先等でサインしてもらう時のアプリケーションや、メールで取引先に契約書を送るためのシステムなどが総じてしっかり作られており使いやすい。さらに、これらのシステムのロゴなどの差し替えなども可能。
- 契約書のデータ自体に契約に至るまでの文書やり取りのログを追記して、その内容を含めて内容の真正証明が実施される。
などがあります。
実際の使用例
弊社では大きく分けて「請求書」や「領収書」などの証憑類と「契約書」「発注書」などの契約類の二種類で電子サインを採用しています。
ここでは例として弊社が発行している見積書兼発注書をお見せします。
個人情報や機密に関わる部分は当然全部モザイクですが、これだけでも電子サインの優秀さがわかるのではないでしょうか。(ちなみに、1枚目の右上の赤いモザイクは弊社の角印ですが、当然これはただの画像です。印刷した時に印影が欲しい、という要求がそれなりになったので挿入していますが、全くもって法律的有効性はありません)
この電子データで示すことができるのは以下の内容です。
- 見積もり金額や付帯条件、適用される細則などの契約情報 ※これは印鑑でもできますね。
- 見積もり金額が記載された見積書を発注者に送付したこと
- 発注者が見積書を閲覧したこと
- 発注者が合意の上でサインをしたこと
- 関係者全員に当該文書が共有されたこと
1個目は普通の印鑑による契約書も同じですね。電子が強いのは2個目以降です。これだけのやり取りの情報がログとして付記され、さらにこの内容も契約書と同等の取り扱いで真正証明が付加されています。
これなら、「見た・見てない」論争は起きません。ちなみに、担当者と決済権を持つ者が違う場合は以下のようになります。
印鑑だと決裁者が見たかどうかなんて正直わかりゃしないのですが、電子サインならこの通り。誰に送付されて誰が見たのかがしっかりわかります。決裁権の持たないものが無断でハンコを押したような場合はその検証は不可能に近いですが、電子サインならわかりますね。
データの亡失防止の話
紙の契約書の場合、「原本」は当然一つしかないわけですから、バックアップはすべて「複製」となり、証拠能力は著しく低下します。しかし、電子契約の場合、電子データが原本となりますから、電子署名が無効化されない完全なるコピーをしたものはすべて等しく原本と同じ扱いとなります。
ですから、様々な拠点にデータを分散して管理したりしっかりとアーカイブを残すことで、万が一災害や悪意ある者による不正アクセスなどによりデータが消失・改ざんされても、原本を守り抜くことができます。
弊社では具体的には以下の体制を取っています。
電子サインが完了したら即時おこなわれること
- 契約関係者に電子メールにより原本となる契約書データを送付。(Adobe Signのシステムより)
- Adobe Signシステム上への保存(AdobeSignのシステムによる)
- 弊社が管理する冗長化されたデータサーバへ保存
- 外部事業者に委託しているクラウドサーバへ保存(AWSなどを想像してください)
これにより、契約書の原本は国内の弊社DC、Adobe社が管理しているAdobeSignシステム、外部事業者に委託しているクラウドサーバのすべてがデータを消失するような自体が発生しない限りはいずれかに有効なものがある状態を保つことができます。
電子サインが完了して1週間以内に行われること
- 長期間保存用BDへの保存
これにより、万が一、インターネットとの疎通性があるホットなデータがすべて消失・改ざんされた場合でも、原本を守り抜くことができます。
つまりは?
弊社の電子契約書は、
- Adobe社のサーバーが不正アクセスを受けるなどして原本データを失う
- 当社の管理しているDCが不正アクセスを受けるなどして原本データを失う
- 外部事業者が管理しているクラウドサーバが不正アクセスを受けるなどして原本データを失う
- 長期間保存用BDが故障する・盗難にあう・紛失する
- 契約相手が原本データを失う
のすべてが同時に起こらない限りはこの世から消え去ることはない、ということです。
少なくとも、紙の契約書よりは亡失の恐れが小さいのではないかと僕は思います。
と、ここまでつらつら書きましたが、これらの内容はすべて電子契約に疑問を呈された取引先様にご説明している内容です。今の所、政府機関を除いて、この説明をさせていただいた後に紙での契約となったことはありません(大手さんもいらっしゃいます)。
話題になった今、是非とも電子サインの普及が今以上に進むことに期待しています。その参考になれば幸いです。(技術的な話をできるだけ避けていますが、需要がありそうならそっちも記事にしようと思います。)